港の原点へ帰る



「気仙沼市魚町・南町内湾地区復興まちづくりコンペ」(2012年4月)のための提案。
港町気仙沼の顔、中心市街地として港町文化を発信してきた魚町・南町内湾地区の東日本大震災からの復興再生にあたり、津波からの防災と減災を考慮しながら、気仙沼が生きてきた時間を未来へつなぎ、より気仙沼らしい活気に満ちた街をかたちづくる為のまちづくりのコンセプト、将来フレーム、実現化手法が求められた。
以下は、デザイン提案説明書からの抜粋。

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気仙沼市の復興計画「海と生きる」を受け、魚町・南町界隈の創造的復興を目指し、「港の原点へ帰る」という提案を行います。
コンセプト提案の前提として、二つの基本テーマを設定しました。これはすなわち、気仙沼の復興を考える際の基幹となる「気仙沼というまちをどう捉えるか」という問に対する私たちの答えです。

基本テーマA  「港の空間」としての原点へ帰る
本格的な人口減少・少子高齢化を迎えるこれからの時代の都市の在り方はどのようにあるべきでしょうか。わたしたちは、そのヒントは過去の気仙沼にあると考えます。すなわち、「街道から山側に集約的に住む」「港を漁業と人々の交流拠点とする」というものです。
平安時代から平泉に最も近い港のひとつとして、東北地方の交易を担ってきた気仙沼は、江戸時代にはスペイン人探検家セバスチャン・ビスカイノに「最良の港」と激賞されました。気仙沼の港町としての原型は魚町での漁業活動にあり、それに沿った街道での商業・交易活動が八日町方面に続いていました。これは、地の利を的確に捉えた非常に合理的な港の在り方です。また、人口の密度、すなわち生き生きとした人の活動・街の胎動を保ちやすいという点においても優れています。
このように、気仙沼港の空間的な原点を参照し、地勢に素直に応えた空間構成を基本に、その上に防災・減災の仕組みと人口減少にも耐える街の活力を生み出す仕組みを計画することを第一の基本テーマとします。

基本テーマB  「港の中心」としての原点へ帰る
この港は、気仙沼の港群の中で最も歴史が古く、港の中心として機能してきた経緯があります。漁業近代化の頃には鹿折で大規模加工場地区ができ、魚町・南町地区は商業・業務的な機能を強め、漁業の風景から都市の風景へと変遷してゆきました。そして今、鹿折地区に水産加工場の集積地、湾東岸に造船・鉄鋼業の集積地などが立地しているように、気仙沼港は全体の中で各地区での明快な役割分担の下に総合的な水産業態を成立させるという全国でも稀な特性を有したものとなっています。
これからの復興に際して、魚町・南町地区は、それらをまとめあげる商業・業務の中心地的性格を強化することに加え、歴史的な時間の積層の上に立つ本地区ならではの文化・交流的な価値を再評価することが重要であると考えます。
このように、気仙沼港の機能的な原点を果たしてきた魚町を復興活動やこれからの港づくりの拠点に据え、商業・業務的機能に加え、文化・交流的な機能を果たすべくハードとソフトの仕組みを計画することを第二の基本テーマとします。
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「港の原点へ帰る」 /気仙沼、日本、2012 © 喜多裕、尾崎信、福島秀哉、木内俊克
「気仙沼市魚町・南町内湾地区復興まちづくりコンペ」(2012年4月) 「個々のアイデアとして卓越している作品」部門・第二位入賞